グレープフルーツと医薬品

掲載情報更新日:2023年5月9日

目次

Part.4安全・安心な医薬品治療を進めるために

「相互作用」の影響とは、具体的にはどのようなものなのでしょうか。
「添付文書」の「相互作用」欄には、例えば「血圧を下げる降圧薬」であれば、「本剤の血中濃度が上昇し、降圧作用が増強されるおそれがある…」などと書かれており、おおむね「当該医薬品の作用が必要以上に強まる」との表記がなされています。

「降圧作用が増強される」、つまり「降圧薬を飲んだ時に必要以上に血圧が下がりすぎる」とどうなるのでしょうか。
一般的には「頭が痛く」「ふらつく」などの症状が現れますが、高齢者では「倒れて頭を打ったり骨折したりする」、また運転中は「ぼーっとなって交通事故を起こす」など、重大な事故やトラブルのもととなります。

そのような相互作用の危険性がある薬は、相互作用の無い薬へと簡単に変えたりできるのでしょうか。
答えは、「No」でもあり「Yes」でもあります。

医師は、患者を問診したり検査したりして症状を特定します。これを「診断」といいます。
診断が決まると、どのように治療するかを考えます。これを「治療設計」といいます。
治療設計では、科学的根拠(エビデンス)に基づき、まずは標準治療を検討します。標準治療とは、多くの臨床試験の結果をもとに専門家が集まって検討を行い最善であるとコンセンサス(合意)が得られている治療法のことです。
続いて、薬による治療が必要な場合は、どの薬をどのくらいの日数服用させるかなどを決めます。これを「処方設計」といいます。
処方する薬は、数ある中から、薬効が顕著で安全も認められ使用に問題ないと学会でも定説がある薬を優先的に使用します。このような医薬品を「第一選択薬」といいます。

以上のように、例えば血圧を下げたい場合に降圧剤ならどの薬を選んでも良いというわけではなく、医師は、診断~治療設計~処方設計に基づいて、その時点で最適と判断した医薬品を処方(処方箋交付)するわけです。
ですから、希望しても相互作用の無い薬が必ず処方されるわけではありませんし、患者の病状や副作用の訴えなどを勘案した結果、相互作用の無い薬への変更ができない場合もあります。

【イラスト】薬物療法の診療の過程(例)

一方で、「CYP3A4」による薬物の代謝の能力には個人差がかなりあることが知られていえます。
そして、血液中の薬物濃度(「血中濃度」といいます)を指標として評価してみると、同じ薬物であっても、グレープフルーツとの相互作用があまり認められない人もいれば、明瞭な影響が出る人もいます。
ただし、これまでの相互作用の検討では、血中濃度の変化に着目したものは多いのですが、実際の効果(例えば降圧作用)や副作用に対し著しい影響が出たという研究報告は非常に限られています。

このことから、「服薬とグレープフルーツ飲食を同時に行うのは厳禁」と一律に規制するのではなく、個人差や、飲食の量を含めた相互作用による体調への影響、影響を受けやすい年齢層など、患者個々の状況を考慮した柔軟な対応を考えても良いかもしれません。

いずれにしても、グレープフルーツとの相互作用が懸念される薬物を服用しているときは、先ず薬剤師や医師と相談した上で、自分の健康をよく観察しながら、服用薬の変更などの要望を積極的に伝えていくことが大切だと思います。

【イラスト】グレープフルーツ飲食について尋ねる患者と、処方箋を手にその可否を説明する医師

このページのポイント

  • 血液中の薬物濃度を指標として評価した場合、同じ薬物の服用でも、グレープフルーツとの相互作用が認められない人と、影響が出る人とに分かれる。
  • これまでの相互作用の検討では、血中濃度の変化に着目したものは多いが、実際の効果(例えば降圧作用)や副作用に対し著しく影響が出たという研究報告は限られている。
  • 「服薬とグレープフルーツ飲食を同時に行うのは厳禁」との一律の規制ではなく、個人差や、飲食の量を含めた相互作用による体調への影響、影響を受けやすい年齢層など、患者個々の状況を考慮した柔軟な対応への検討が必要ではないか。
  • グレープフルーツとの相互作用が懸念される薬物の服用の際は、先ず薬剤師や医師と相談した上で、自分の健康をよく観察しながら、服用薬の変更などの要望を積極的に伝えていくことが大切である。

[※ご注意]グレープフルーツと医薬品が起こし得る「相互作用による健康への影響」は、年齢や体質・体調など患者一人一人で異なります。自身で判断せずに診察や服薬指導の際に医師や薬剤師に確認して下さい。

■参考文献

  • 杉山正康(著, 編集). 新版 薬の相互作用としくみ. 日経BP, 2022;第2版, 820p.
  • 森本雍憲(監訳). 医薬品-食品相互作用ハンドブック. 丸善出版, 2011;第2版, 584p.
  • 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 (編集). 高血圧治療ガイドライン2019. ライフサイエンス出版, 2019, 304p.
  • 日本臨床内科医会 (編集). 内科診療実践マニュアル. 日本医学出版, 2016;改訂第2版, 706p
  • 日本臨床内科医会 (編集). 内科処方実践マニュアル. 日本医学出版, 2015;改訂第2版, 574p
  • 寺下謙三(総監修). 標準治療 最新版 -あなたの「最適な治療法」がわかる本. 日本医療企画, 2006;第3版, 1565p.
  • 「健康食品」の安全性・有効性情報. “グレープフルーツと薬物の相互作用について (Ver.20090129)”. 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所.(参照2022-10-01).
  • 一般社団法人日本医療薬学会 お知らせ. “「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」の公表”. 一般社団法人日本医療薬学会 医療薬学学術第一小委員会.(参照2022-10-01).
  • 国立がん研究センター がん情報サービス 用語集. “標準治療”. 国立研究開発法人国立がん研究センター.(参照2022-10-01).
  • デジタル大辞泉「第一選択薬」の解説. “第一選択薬”. 株式会社DIGITALIO及び株式会社C-POT.(参照2022-10-01).
  • ※コンテンツは、医師・薬剤師による監修を経て公開されています。
  • ※コンテンツに記載されている医薬品は、一般に「経口投与(口から飲む)の処方薬」を指します。