グレープフルーツと医薬品

掲載情報更新日:2023年5月9日

目次

Part.1体内での薬の働きと、相互作用への「酵素」の関わり

飲んだ薬は、体の中をどのように巡っていくのでしょうか。
口から体内に入った医薬品が、どのように体内を循環し、体から消えていくかを考える学問分野を「薬物動態学(やくぶつどうたいがく)」と言います。
「薬物動態学」に関心を持つことで、相互作用がどこで/なぜ起きるのかを知ることができるわけです。
最初は、このお話しから始めましょう。

体内に入った薬物は、先ず「吸収(きゅうしゅう)」され、そして体内組織に「分布(ぶんぷ)」し、体の中にある酵素によって「代謝(たいしゃ)」されることで薬としての効果が失われた(失活した)他の化合物へと変換されたり、体外に「排泄(はいせつ)」されることで体内から消失します。
グレープフルーツと医薬品の相互作用を理解する第一歩は、この「吸収」→「分布」→「代謝」→「排泄」の4つの過程であり、このプロセスを見ていくことで、薬物の効能や副作用・相互作用といった毒性がどこで、またどう現れるかといった関連性がわかるわけです。

【イラスト】「吸収」→「分布」→「代謝」→「排泄」と、人体イメージ

まず最初は「吸収」です。口から飲まれた薬は、胃や腸で溶けてから、主に小腸から吸収されて血液に溶け込みます。
その後、血液の流れに乗って各組織に運ばれて(「分布」)いきます。
またヒトには、酸素や栄養素を外から取り込み、消化・吸収して活動に必要な物質やエネルギを得たり、体内の活動で不要になった老廃物を除去する過程が必要です。こうしたとき、体内では化学反応により物質の構造が変化することがあります。これを「代謝」といいます。薬も体にとっては異物ですから、一部の薬は、体内で「代謝」を受けて、薬としての活性(効果)を失います。
また、薬によっては、代謝を受けることなくそのままの形で体外に「排出」されることもあります。排出の過程は2つあります。一つは、腎臓で血液中から除去されたものが、「尿」として体外に出ていくもの、もう一つが、肝臓で血液中から除去されたものが胆汁となって消化管を経由し「便」としてとして体外に出ていくものです。

さて、人体に取り込まれた薬を体内で「代謝」する働きを担い、グレープフルーツとの相互作用に大きな影響を与えているのが「薬物代謝酵素」です。

薬物代謝酵素は、肝臓に多く存在していますが、小腸にも存在しています。
「薬物代謝酵素」にはさまざまな種類・グループがありますが、とくに重要なのは「Cytochrome(シトクロム)P450」、または略して「CYP(シップ)」と呼ばれるグループです。Cytochrome P450 に分類されるさまざまな薬物代謝酵素のうちで、グレープフルーツの影響をうける代表的な酵素は、「CYP3A4(シップスリーエーフォー)」です。

小腸や肝臓におけるこの「CYP3A4」という酵素の働きが、薬物の「代謝」ひいてはグレープフルーツと医薬品の相互作用に大きく関与しているのです。

【イラスト】小腸と肝臓を軸にした、吸収と代謝とCYPのイメージ

このページのポイント

  • 医薬品が体内を循環し消失する過程を考える「薬物動態学」によって、グレープフルーツとの相互作用がどこで/なぜ起きるのかを知ることができる。
  • グレープフルーツと医薬品の相互作用を理解する初歩は、「吸収」→「分布」→「代謝」→「排泄」の4つの過程である。
  • 医薬品を体内で「代謝」する働きを担い、グレープフルーツとの相互作用に影響を与えているのが「薬物代謝酵素」である。
  • 小腸や肝臓における薬物代謝酵素「CYP3A4」の働きが、グレープフルーツと医薬品の相互作用に大きく関与している。

[※ご注意]グレープフルーツと医薬品が起こし得る「相互作用による健康への影響」は、年齢や体質・体調など患者一人一人で異なります。自身で判断せずに診察や服薬指導の際に医師や薬剤師に確認して下さい。

■参考文献

  • 杉山正康(著, 編集). 新版 薬の相互作用としくみ. 日経BP, 2022;第2版, 820p.
  • 森本雍憲(監訳). 医薬品-食品相互作用ハンドブック. 丸善出版, 2011;第2版, 584p.
  • 堀美智子(監修, 編集). 医薬品・食品相互作用ハンドブック. じほう, 2006, 309p.
  • 大谷壽一(著). マンガでわかる薬物動態学. オーム社, 2021, 181p
  • 「健康食品」の安全性・有効性情報. “グレープフルーツと薬物の相互作用について (Ver.20090129)”. 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所.(参照2022-10-01).
  • 一般社団法人日本医療薬学会 お知らせ. “「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」の公表”. 一般社団法人日本医療薬学会 医療薬学学術第一小委員会.(参照2022-10-01).
  • ※コンテンツは、医師・薬剤師による監修を経て公開されています。
  • ※コンテンツに記載されている医薬品は、一般に「経口投与(口から飲む)の処方薬」を指します。